Tech Notes

MOSFETの熱雑音の式導出

MOSFETの熱雑音を表す式としてよく教科書に載っているのが以下の式だ。

$$\overline{i_n^2}=4kTg_m\gamma\Delta f$$

曰く、この電流がドレインソース間に重畳されるという。

$4kT\Delta f$の部分は抵抗の熱雑音と同じなのでなんとなく納得できるが、相互コンダクタンス$g_m$が出てくるのが分からない。$\gamma$という係数の値が理論値としては$2/3$になるという情報も割と見当たるが、その根拠というのはネット上だと全く見つからなかった。仕方ないのでちゃんと調べてみたのがこの記事だ。

記事の内容は書籍 Noise: Sources, Characterization, Masurement(Van Der Ziel, 1970) に基づく。

MOSFETのチャネルの解析

MOSFETのドレインソース間に何らかの電圧がかかっている状態について考える。ソースの位置を$x=0$、ドレインの位置を$x=L$とする。

また、ソース電極($x=0$)とチャネル中の位置$x$の間にかかる電圧を$V(x)$とする。$V(0)=0$であり、$V(L)=V_d$である。

位置$x$における単位長さあたりコンダクタンス(抵抗の逆数)を$g(x)$とすると、微小区間$dx$のコンダクタンスは$g(x)/dx$と表すことができる。抵抗が長さに比例するのと逆に、コンダクタンスは長さに反比例するからだ。また微小区間にかかる電圧は$dV$とすることができ、以下の式が成立する。

$$I_d = g(x) \frac{dV}{dx}$$

右辺は位置$x$に依存する式だが、左辺$I_d$は電流の連続性によりどの位置で見ても同じはずである。従って以下のように計算できる。

$$\int_0^L I_d dx = I_d L$$

これは後で使う。

またもう一つ、$V$は基本的に$x$に対して単調な関数になるので、$x$と$V$は1対1に対応する。したがって、$g(x)$は$g(V)$とも書くことができる。これを使うと、以下のような式変形ができる。

$$I_d = g(V) \frac{dV}{dx}$$

$$I_d dx = g(V) dV$$

$$\int_{x=0}^{x=L} I_d dx = \int_{V=0}^{V=V_d} g(V) dV$$

電流連続を利用してさらに計算を進める。

$$I_d L = \int_{0}^{V_d} g(V) dV$$

$$I_d = \frac{1}{L} \int_{0}^{V_d} g(V) dV$$

これを使うと、出力コンダクタンス$g_{ds}$と$g$の関係を得られる。

$$g_{ds} = \frac{\partial I_d}{\partial V_d} = \frac{\partial}{\partial V_d} \left( \frac{1}{L} \int_{0}^{V_d} g(V) dV \right)$$

$$g_{ds} = \frac{g(V_d)}{L}$$

ところで、$V_d=0$の場合はチャネル全範囲に渡って$V(x)=0$であり、$g(V)=g(0)$のはずである。このときの$g_{ds}$を$g_{d0}$、このときの$g(0)$を$g_0$と置くと、

$$g_{d0}=\frac{g_0}{L}$$

という式が成り立つ。

ノイズ電流の計算

熱雑音によるノイズを考える。

電流$I_d$にはノイズ電流$\Delta I_d$が重畳される。このノイズ電流の値を求めたい。

チャネル中の位置$x$における電圧$V(x)$には、ノイズが無い場合の値$V_0$からノイズによる変動成分$\Delta V$が重畳され、そしてチャネルの位置$x$はノイズ電流$h(x)$を生じる。

$$I_{d0} + \Delta I_d= g(V) \frac{d V}{dx}+h(x)$$

$$ = g(V_0+\Delta V) \frac{d (V_0 + \Delta V)}{dx}+h(x)$$

単純に$\Delta I_d = h(x)$としてしまいたくなるが、電流連続より左辺がxに依存しないのに対し、右辺はわざわざ$h(x)$としてある通り位置に依存することを無視してはいけない。

右辺を計算していく。二次の微分項は無視する。

$$=\left(g(V_0) + \frac{dg}{dV}\Delta V \right)\left( \frac{d V_0}{dx} + \frac{d \Delta V}{dx} \right)+h(x)$$

$$=g(V_0) \frac{d V_0}{dx} + g(V_0) \frac{d \Delta V}{dx} + \frac{dg}{dV_0}\Delta V \frac{d V_0}{dx} +h(x)$$

$$=g(V_0) \frac{d V_0}{dx} + g(V_0) \frac{d \Delta V}{dx} + \frac{dg}{dx}\Delta V +h(x)$$

$$=g(V_0) \frac{d V_0}{dx} + \frac{d (g(V_0)\Delta V)}{dx} +h(x)$$

$I_{d0}=g(V_0) \frac{d V_0}{dx}$を使うと、以下の式が求まる。

$$\Delta I_d=\frac{d (g(V_0)\Delta V)}{dx} +h(x)$$

両辺を積分する。

$$\int_0^L \Delta I_d dx=\int_0^L \frac{d (g(V_0)\Delta V)}{dx} dx +\int_0^L h(x) dx$$

$$\Delta I_d L=\int_0^L d (g(V_0)\Delta V) +\int_0^L h(x) dx$$

$$=\left[ g(V_0)\Delta V \right]^{x=L}_{x=0} +\int_0^L h(x) dx$$

教科書ではここで$x=0,L$において$\Delta V=0$を仮定することで右辺第一項を消し飛ばしている。それでいいんですか。

$$\Delta I_d L = \int_0^L h(x) dx$$

$$\Delta I_d = \frac{1}{L} \int_0^L h(x) dx$$

両辺について自己相関関数を求める。

$$\overline{\Delta I_d(x, t)\Delta I_d(x, t + s)} = \frac{1}{L^2} \int_0^L \int_0^L \overline{ h(x', t) h(x, t + s) } dx' dx$$

ウィーナー・ヒンチンの定理より、自己相関関数は周波数スぺクトルのフーリエ変換に等しいので、以下の式が成り立つ。

$$S_{\Delta I_d}(f) = \frac{1}{L^2} \int_0^L \int_0^L \overline{ S_h(x, x', f) } dx' dx$$

このときの$S_h$は

$$S_h(x, x', f)=4kT g(x') \delta (x'-x)$$

として表せるらしい。

$$ \frac{1}{L^2} \int_0^L \int_0^L \overline{ S_h(x, x', f) } dx' dx = \frac{4kT}{L^2} \int_0^L \int_0^L g(x') \delta (x'-x) dx' dx$$

$$ = \frac{4kT}{L^2} \int_0^L g(x) dx$$

ここで上で出した$I_d = g(x) \frac{dV}{dx}$の関係を使って$dx$を置換する。

$$dx = \frac{g(x) dV}{I_d}$$

$$\Rightarrow \frac{4kT}{L^2} \int_0^L g(x) dx = \frac{4kT}{L^2 I_d} \int_0^{V_d} g^2(V_0) dV_0$$

$I_d L = \int_{0}^{V_d} g(V) dV$を代入する。

$$\frac{4kT}{L^2 I_d} \int_0^L g^2(V_0) dV_0 = \frac{4kT}{L} \frac{\int_0^{V_d} g^2(V_0) dV_0}{\int_{0}^{V_d} g(V_0) dV_0}$$

$$=\frac{4kT g_0}{L} \frac{\int_0^{V_d} (g(V_0)/g_0)^2 dV_0}{\int_{0}^{V_d} (g(V_0)/g_0) dV_0}$$

$$=4kT g_{d0} \cdot \gamma$$

これで求めたかった式が求められた。

$g_{d0}=g_m$となることについて

よく知られた式の形では$g_{d0}$ではなく$g_m$が使われている。これは飽和領域において近似的に一致するためである。

$g_{d0}$は$V_{ds}=0$における$g_{ds}$の値なのだった。チャネル長変調効果を無視した場合の式を用いて計算してみよう。

まず$g_m$から。

$$I_d = \frac{1}{2}\frac{W}{L}\mu C_{ox} (V_g - V_{th})^2$$

$$g_m = \frac{\partial I_d}{\partial V_g} = \frac{W}{L}\mu C_{ox} (V_g - V_{th})$$

次に$g_{ds}$。$V_{ds}=0$なので線形領域の式を使う。

$$I_d = \frac{W}{L}\mu C_{ox} V_{ds}(V_g - V_{th} - \frac{1}{2}V_{ds})$$

$$g_{ds} = \frac{\partial I_d}{\partial V_g} = \frac{W}{L}\mu C_{ox} (V_g - V_{th}-V_{ds})$$

$$ g_{d0} = \left. g_{ds} \right|_{V_{ds}=0} = \frac{W}{L}\mu C_{ox} (V_g - V_{th}) $$

確かに同じ形の式になることが分かる。

ノイズ係数$\gamma$について

$\frac{\int_0^{V_d} (g(V_0)/g_0)^2 dV_0}{\int_{0}^{V_d} (g(V_0)/g_0) dV_0}$という無次元の部分を括り出したのが$\gamma$なのだった。

十分に長チャネルなMOSFETでは$\gamma = 2/3$だが、近年のサブミクロンプロセスではもう少し大きくなる(4~5倍程度)。Abidi(1986)によれば、短チャネルMOSFETでは強い電界によって"熱い電子"が作られるのが原因ではないかとのことらしい。

通常、電流が流れて電子が動く際は定期的に電子が結晶格子に衝突して、全体として一定速度になり平衡状態になるが、強い電界の中では電子が平衡状態まで達さず電子温度と格子温度が異なってしまうことがある。"熱い電子"というのはこれを指している。

長チャネルで2/3になることについては Gate Noise in Field EffectTransistors at Moderately High Frequencies (Van Der Ziel, 1962) という論文に載っているようなのだが、結構面倒な計算をしているようだった。ちゃんと理解したら別記事で投稿したい。

参考文献

  • Design of Analog CMOS Integrated Circuits(Behzad Razavi)
  • High-Frequency Noise Measurements on FETs with Small Dimensions(Abidi, 1986)
  • Noise: Sources, Characterization, Masurement(Van Der Ziel, 1970)
  • RF Noise Models of MOSFETs- A Review(S. Asgaran, 2005)

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