Tech Notes

アイロン転写エッチングによる基板製作

前々からエッチングというものにトライしてみたいと思っていたのだが、最近ようやく手を付けることができた。

ネットの作例を見ると、アイロン転写による方法では細かいパターンは難しいようなことがよく書いてあるのだが、幅0.2mmの配線や0.5mmピッチの狭ピッチICのフットプリントも問題なく行けることを確認した。今回得たノウハウをこの記事で書き残しておきたいと思う。

エッチングの基本原理

まず前提として、エッチングの原理について説明しておく。

エッチング液とは要するに金属を溶かす腐食液であり、これに浸すと銅箔が溶ける

そこで、まず全面に銅箔が張られた基板(銅張基板、生基板とも)を用意する。そして銅箔を残したい部分にだけ保護膜=エッチングレジストを作り、エッチング液に浸すことで選択的に銅を溶かす。最終的にレジストを除去することで所望のパターンを作成する。これがエッチングの基本だ。

露光方式にしろ、アイロンによる熱転写方式にしろ、この点については変わらない。

2種類のアイロン転写エッチング

アイロン転写方式と言っても、ネットで広く流布しているものには2種類ある。

  1. 普通紙+レーザープリンタ
  2. 転写紙+レーザープリンタ

この記事では後者の転写紙+レーザープリンタを扱う。

普通紙+レーザープリンタ

比較のためにまずこちらについても説明する。

まず普通紙にレーザープリンタでパターンを印刷する。それを濡らして基板に貼り付け、アイロンで熱して貼り付ける。原理としては、高温で溶けたトナー成分が銅箔表面に貼り付くものと思われる。プラスチックの樹脂を主成分とするトナー成分は高くとも160℃程度で軟化する一方で、紙のセルロースは200℃超でも融解しない。トナーだけが融けて基板の上に移る。なおインクジェットプリンタのインク顔料はもっと融けないので、インクジェットプリンタでの熱転写は不可能。

紙を貼り付けた後、濡れた紙をそっと剥がす。残った紙は指の腹でこそげ落とす。こうするとトナーだけが残る。

この方法は細かいパターン作成に向かない。恐らく融解したトナーは多少なり紙に染み込み繊維と結合するため、紙だけを剥がそうとしてもパターンが一緒に剥がれやすいのだ。そのために細かいパターンの再現は困難になる。

転写紙+レーザープリンタ

基板転写に向いた専用の紙を使う方式。今回はこちらを採用した。

転写紙とはAmazonなどで売っている、シールの台紙っぽい紙である。

転写紙は片側の表面がつるつるしており、融解したトナーが浸み込まない。そのため綺麗に剥がすことができ、細かいパターンもよく再現する。

工程

こんな感じになる。

  1. 設計
  2. 印刷
  3. 銅箔の研磨
  4. 転写
  5. エッチング
  6. トナー除去
  7. 穴あけ

1. 設計

KiCAD等で普通に設計する。

GNDベタにした方が削る量が減るので、エッチング液が長持ちする。

配線幅

細かすぎるパターンは出せない。自分の実験したところでは配線幅の限界は0.1mm程度、空隙の限界は0.2mm程度で、0.1mmの空隙はエッチング以前に印刷で潰れてしまった。

デザインルールとしては配線0.2mm/空隙0.2mm、あるいは配線0.3mm/空隙0.3mm程度が安心なラインだろう。

狭ピッチICの配線を引き出すにしても、0.5mmピッチ程度までは問題ないが0.4mmになってくると綺麗にできなければ厳しいと感じた。

ビア

後述するが、ドリルで穴を手開けして銅線を挿すので、ICの下には基本入れられない。従ってICの下以外にビアを設けるしかなく、BGAを扱うのはさすがに厳しいと思われる。

2. 印刷

転写紙に印刷する。レーザープリンタであればよい。自分はBrother HL-L2400Dという安いものを使っている。

HL2400D(Brother)

印刷の際にはいくつか注意点がある。

  • 印刷時のCADでの設定
    • 転写するので鏡像反転させて印刷する。
    • 穴は後で手で開けるので、ドリルマークなし(あるいは小ドリルマーク)で印刷する。
  • 印刷時のプリンタでの設定
    • 印刷の濃さが変えられる場合はできるだけ濃くする。
      • Brotherのプリンタでは、ドライバをインストールすると印刷時の特殊設定で変えることができた。
      • ただし濃すぎると印刷が止まりやすいようなので、ほどほどがよいと思われる。
    • 特殊な紙に印刷するので、手差しで印刷した方がよい。
    • 濃く印刷する都合上、ドラムのクリーニングはこまめに行う。
    • 紙送りローラーによる掠れが起こりやすいので気を付ける。
      • 実験した結果、横向き手差しで印刷すると掠れにくいようなのでこの方法を採用している。
      • この辺は紙とプリンタに依存しそうなので適宜実験してみるべきだろう。

Amazonなどで売ってる転写紙は大体A4だが、自分はA5を超える基板などまず作らないので、全て半分に切ってストックしている。

ちなみに転写紙のほかに、百均で「剥離紙シート」という商品が売っている。

剥離紙シート 12枚(ダイソー)

これも試したのだが、残念ながら全く綺麗に印刷できなかった。印刷したあとにざらつくので、触った質感が似ていても耐熱性に差があるようだ。

プリンタとの相性もあるかもしれないので、違うプリンタを持っている人は試してみてもよいかもしれない。

3. 銅箔の研磨

銅箔表面の酸化膜や汚れを取り除くため、スチールウールで擦る。

このとき、押さえる指が素手だとまた指の脂が付いてしまったりするため、自分は百均の指サックを使用している。

カラー指サック(ダイソー)

4. 転写

アイロンで転写する。この転写にもいろいろコツがある。

紙の貼り付け

紙を基板にぴたりと貼り付けるには水を含ませるべきだが、紙は水を含むと丸まってしまう。これで紙が銅箔から浮くと正確な位置決めができなくなってしまう。

自分の採用している方法だが、まず先に銅箔にスプレーで水を吹く。この状態で転写紙を貼り付けると、転写紙のオモテ面は水を通さないので紙は水を吸わない。表面張力で張り付く効果だけを得られる。

この状態で上に布を当て、水をかける。そうすると紙が浮かずに水を加えられる。布の素材によってはベタパターン部分に当て布の繊維の跡が付いてしまうので、自分は不織布(フェルト)を使っている。

そしてアイロンを当てる。温度は「低」の設定(大抵100℃程度のはず)にしている。

  1. まず1分ほど加熱。これで紙の位置が固定される。
  2. 布をまくって直接水を吹きかける。
  3. 再び布越しに4分加熱。これで転写される。

色々実験してみたが、アイロンを強めに押し当てると良く転写される。圧力が重要なのだと思われる。

また、版画刷りのようにスリスリと動かすのは良くない。パターンがズレる効果しかない。定期的に押し当てる場所を変える方がよい。

終わったあと、再び水を加えて紙を剥がす。水を加えると紙が柔らかくなるせいか剥がしやすい。

失敗したらスチールウールでガシガシ擦って剥がす。

パターンの手修正

気になる部分を手で修正する。使うのは油性ペンが良い。自分は「マッキー」を愛用している。

ぺんてるの筆ペンなども試したが、エッチング中に剥がれてしまった。水性インクだと溶けてしまうのだと思う。

周囲のベタ塗り

基板パターンの周囲は銅箔が露出するかもしれない。このままでも良いが、不要なエッチング面積は減らした方がエッチング液の消耗が減るので、マジックで塗りつぶす。

ただこれだと元の基板形状が分からなくなってしまうので、基板形状が重要なら境界線は残すとよいかも。

5. エッチング

サンハヤトのエッチング液で銅箔を溶かす。画材屋で売ってるエッチング液でも中身に違いはないらしいが、サンハヤトのエッチング液は説明書と処理剤まで付いているので、初心者としては安心感がある。

エッチング液(サンハヤト)

温度を測りながら湯煎で適温に温める。湯煎は冷めるので、ある程度大きい器にたっぷり水を張る方が有利。

定温ヒーターがあればそれを使っても良い。これなら冷めない。ただし温度には注意。

適温は40~45℃とされているが、別に30℃でも反応は進む。むしろ初めてでは低めの温度で慎重にやった方が安心かもしれない。

エッチング液はシンプルに毒物で危ないので色々気を付けている。

  • 蓋の閉まるタッパーに入れる。タッパーには「キケン」と書いている。
  • ゴム手袋を着用する。使ったゴム手袋はこれ専用ということにしている。
  • エッチングした基板の洗浄用にもう1つタッパーを用意している。

エッチング中の基板は割りばしで掴んでいる。溶けるので金属製の道具は使えない。竹ピンセットなども用意したが、自由に大きく開ける点で割り箸が優れていた。エッチング液は真っ黒なので途中で見失わないように気を付ける。

底が平坦だと基板が貼り付いて拾いにくくなる。自分はエッチング液の底にゴムクッションシールを貼ったりしている。金属製のものは腐食するので使えない。

エッチング終了のタイミングは目視で判断できる。銅箔が溶ければ樹脂の色が露出する。銅箔が残っていれば赤っぽい金属光沢があるので、それで溶けたかどうかは分かる。

エッチング液を下水に流してはいけないので、エッチングの終わった基板をシンクでジャブジャブ洗ったりしてはいけない。容器の中で洗浄する。洗浄ビンなどがあると便利。

6. トナーの除去

エッチングレジストとして使ったトナーを除去する。除光液=アセトンで溶かすやり方などもあるようだが、シンプルにスチールウールでガシガシ擦ればよい。かなり細いパターン(0.1mm)でもこれで剥がれるようなことはない。

7. ビア・スルーホールの穴あけ

エッチングではどうにもならないのが穴加工だ。これは手作業でドリルで開けるしかない。自宅にはボール盤が無いのでリューターでやっている。ハンドドリルは遅すぎてやってられない。

リューターでも十分と言えば十分なのだが、位置精度と垂直精度が無いと穴がずれて、ピンヘッダやDIP ICなどの多ピン部品が入らなくなる。やはりボール盤があった方が便利だと思う。

穴径にはスルーホールで1.0mm、ビアで0.5mmを使用している。リード抵抗などの普通のリード部品であればスルーホール径0.8mm程度でも十分なのだが、角ピンヘッダなどを使う場合は1.0mm径でないと入らない。なお細い径のドリルは少し軸がぶれただけでも穴の大きさへの影響が大きいので、芯ブレの確認はしっかりやる。

細いドリルの方が位置精度、垂直精度が出しやすいので、スルーホールはまず0.5mmで下穴を開けたあとに1.0mmのドリルを通す形にしている。自分はリューターを使っているのでこのようにしているが、ちゃんとしたボール盤があれば最初から1.0mmで開けるので良いと思う。

ビア径はもっと細くてもいいかもしれない。ただあまり細いと線材が通らなくなるのと、細いドリルは扱いが怖いので0.5mmを使っている。

ドリルで穴を開けたあと、両面を導通させる必要がある。本式の両面プリント基板であればメッキで穴の中に銅を張るのだが、自宅ではそんなの出来ないので、線材を通してはんだ付けして導通させる。ただの銅線は部品屋よりもむしろ、その辺のホームセンターなどで売っている。

ビアは導通だけが目的なのでこれで良いのだが、「部品を通す」という目的もある導通型スルーホールは難しい。L字ピンヘッダなど両面ではんだ付けできる部品であれば、部品挿入のついでで導通もできるかという程度だ。

ところで、サンハヤトの製品として「スルピンキット」というスルーホールを自前で作れるキットがある。ちょっと高いので試したことはないが、選択肢の1つとしてはアリかもしれない。

スルピンキット(サンハヤト)

エッチング液の後処理

エッチング液の腐食能力は無限ではないので、どこかで廃棄が必要になる。ただ、いきなり使えなくなるのではなく徐々に消耗するので、まだ腐食能力が残る有害な状態で使用を終えざるを得ない。これをどう処理するかが問題になる。

サンハヤトが売っているエッチング液には処理剤が付属している。これを使うと腐食能力を消費しきれる。この上でホームセンターで買ったセメントで固めると燃えないゴミとして出せる。

今後の課題: 両面基板の作成

今の所試したのは片面基板のエッチングと、両面基板の片面のみのエッチングだ。両面パターン基板はまだ試したことがない。ビアのことを考えるとどんなに譲歩しても誤差0.5mm未満で位置合わせをする必要がある。

となると、工程としては表面パターニング→穴あけ→裏面位置合わせの順番になるだろう。成功したら別途記事を書く。

今後の課題: 転写精度の向上

現時点での知見を色々書いたが、未だにアイロンでの転写には度々失敗する。マッキーでの補修で何とかなる程度ならそれで何とかするが、パターン欠けが多い場合はやり直している。

主に

  • 圧力を強くかける
  • 時間をかける
  • アイロンを横に動かさない

といった点が重要なことは間違いないが、どの程度の条件であれば間違いなく成功するのかといった条件はあまりちゃんと分かっていない。もっと知見が集まったらこれも別の記事でまとめたい。

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